黒沢院長のまとめ
- 長引く熱と、首のリンパ節の腫れが特徴です: 扁桃腺に白い膿がつき、のどの強い痛みとともに熱が1〜2週間続くことがあります。
- 原因は「ウイルス」のため、抗生剤は効きません: 溶連菌(細菌)による扁桃炎と症状が非常に似ていますが、ウイルス感染なので抗生剤を飲んでも熱は下がりません。
- 特定の抗生剤で「全身に発疹」が出ます: 誤ってペニシリン系の抗生剤を飲んでしまうと、全身に真っ赤な発疹が出るという特殊な反応が起こる点に注意が必要です。
- 治った後もしばらく「激しい運動」は禁止です: お腹の中にある「脾臓(ひぞう)」という臓器が腫れて脆くなるため、破裂を防ぐために約1ヶ月はコンタクトスポーツなどを控える必要があります。
1. 伝染性単核球症ってどんな病気?
主に「EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)」というウイルスに感染することで起こる病気です。
このウイルスは唾液を通じて感染します。日本では昔から、大人が口をつけた箸やスプーンを共有したり、口うつしで食べ物を与えたりすることで、乳幼児期にほとんどの人が気づかないうちに感染を済ませていました(乳幼児が感染しても症状が出ない「不顕性感染」が多いためです)。 しかし、最近は衛生環境が良くなったため、幼少期に感染せず、学童期から思春期になって初めて感染するお子様が増えています。ある程度大きくなってから初めて感染すると、強い症状が出やすくなるのがこの病気の特徴です。
2. 典型的な症状と経過
ウイルスがのどで増殖し、その後全身のリンパ節に広がるため、以下のような症状が揃って現れます。
- のどの痛みと扁桃腺の腫れ: 扁桃腺に白いベッタリとした膿(白苔)がつき、唾を飲み込むのも辛いほどの強い痛みが出ます。
- 長引く発熱: 38度以上の高熱が、数日から長いと1〜2週間ほどダラダラと続きます。
- 首のリンパ節の腫れ: 首の周り(特に耳の下から首の横にかけて)のリンパ節がゴリゴリと腫れ、触ると痛がります。
- 全身の強いだるさ(倦怠感): 熱の高さ以上に、ぐったりと元気がなくなります。
※院長個人の注目ポイントとして、熱が出始めた発症のごく初期に「両側のまぶたがぽってりと腫れる(両側眼瞼浮腫:Hoagland sign)」という特徴的なサインがあります。 熱とのどの痛みだけでは風邪や溶連菌との見分けが非常に難しい初期段階において、私が診察室で個人的にとても重視しているサインの一つです。「熱があって、なんだかお顔(まぶた)がむくんでいるな」と感じたら、この病気を疑う重要な手がかりになります。
3. 特定の抗生剤で全身に発疹が出ます
この病気は、症状だけを見ると「溶連菌(ようれんきん)感染症」という細菌による扁桃炎と非常にそっくりです。
溶連菌であれば「抗生剤」を飲めばすぐに良くなるのですが、伝染性単核球症はウイルスが原因であるため、どんな抗生剤を飲んでも全く効きません。 さらに厄介なことに、伝染性単核球症のお子様に対して、溶連菌の特効薬である「ペニシリン系」の抗生剤(アモキシシリンなど)を投与してしまうと、数日後に全身に真っ赤な強い発疹(薬疹)が現れるという非常に特殊な反応を起こします。
「のどが痛くて別の病院で抗生剤をもらったけれど、熱が下がらないどころか全身に発疹が出てきた」という経過で当院を受診され、血液検査でこの病気が発覚するケースがよく見受けられます。
4. 診断と治療について
クリニックでは、まぶたの腫れやのどの所見、首の腫れなどの診察に加え、血液検査(白血球の一種である「異型リンパ球」の増加や、肝臓の数値の上昇を確認します)を行って総合的に診断します。
治療についてですが、EBウイルスを直接退治する薬(抗ウイルス薬)はありません。そのため、自分の免疫力でウイルスに打ち勝つのを待つ「対症療法」が基本になります。 熱や痛みを和らげる薬(解熱鎮痛剤)を使いながら、水分をしっかり摂って安静にして過ごします。のどの痛みが強すぎて水分が全く摂れない場合や、肝臓の数値が著しく悪い場合は、総合病院へご紹介し、点滴や入院での治療をお願いすることもあります。
5. 運動制限について
熱が下がり、のどの痛みがなくなって学校に復帰できた後も、一つだけ絶対に守っていただきたい注意点があります。
この病気にかかると、お腹の左上にある「脾臓(ひぞう)」という臓器が腫れて大きくなり、非常に破裂しやすい状態(豆腐のように脆い状態)になることが多くあります。 この状態で、お腹にボールが当たったり、人と激しくぶつかったりすると、脾臓が破裂して命に関わる大出血を起こす危険性があります。
そのため、症状が良くなった後も、約1ヶ月間は体育の授業や部活動(特にサッカー、バスケットボール、柔道などのコンタクトスポーツ)は禁止となります。超音波検査などで脾臓の腫れが引いたことを医師が確認するまでは、絶対に激しい運動は避けてください。




