黒沢院長のまとめ
- どちらも「かぜウイルス」の仲間です: 2歳までにほぼ100%のお子様が一度は感染する、とてもありふれたウイルスです。
- 赤ちゃんや小さなお子様は要注意: 大きな子にとっては「ただのかぜ」でも、小さな子が感染すると肺の奥まで炎症が進み、「細気管支炎(さいきかんしえん)」という苦しい状態になりやすいのが特徴です。
- 特効薬はありません: ウイルスをやっつけるお薬はありません。こまめに鼻水を吸ってあげることが一番の治療になります。
- 検査は「本当に必要なとき」だけ: 原因が分かってもお薬は変わらないため、痛い検査は保険のルールに基づき、重症化のリスクがある場合に絞って行います。
- 見極めのポイントは「呼吸の様子」: お熱の高さよりも、「ゼーゼーしていないか」「息をするのが苦しそうでないか」をしっかり見てあげることが一番大切です。
1. RSウイルスとヒトメタニューモウイルスって?
この2つのウイルスは、医学的にとてもよく似た「ウイルス界の兄弟」のような存在(近縁種)で、どちらも鼻やのどに感染する「かぜウイルス」の仲間です。名前は難しくて怖い印象を受けますが、決して珍しい病気ではありません。
RSウイルスは秋から冬(近年は夏から流行することもあります)に、弟分のヒトメタニューモウイルスは春から初夏にかけて流行しやすいという季節の違いはありますが、兄弟のようなものなので、引き起こす症状や治療法はとてもよく似ています。
2. どうしてこの2つのウイルスが怖いの?
小学生くらいのお子様や大人が感染しても、軽い鼻水や咳が出る「ただのかぜ」で終わることがほとんどです。 しかし、まだ気管支(空気の通り道)が細くて柔らかい赤ちゃんや小さなお子様(RSウイルスは特に1歳未満、ヒトメタニューモウイルスは1〜3歳頃)が感染すると、ウイルスが肺の奥深くまで入り込んでしまいます。
すると、肺の奥の細いトンネル(細気管支)がパンパンに腫れて、そこにドロドロの痰が詰まってしまいます。これを「細気管支炎(さいきかんしえん)」と呼びます。ストローにスライムが詰まったような状態になるため、空気をうまく吸ったり吐いたりできず、お子様にとって非常に苦しい状態になってしまうのです。
3. 気づいてあげるためのサイン
最初は「普通のかぜかな?」と思うような、お熱や鼻水からスタートします。しかし、数日経ってから以下のような症状が目立ってくるのが特徴です。
- 咳がひどくなる: コンコンという軽い咳から、ケンケン、ゴホゴホという重たくて苦しそうな咳に変わります。
- 呼吸の音が変わる: 息を吐くときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という笛のような音が聞こえます(喘鳴:ぜんめい)。
- 痰が絡んで吐いてしまう: ドロドロの痰がうまく出せず、咳き込んだ拍子に飲んだミルクやご飯を一緒に吐いてしまうことがあります。
4. 治療とお薬について
残念ながら、インフルエンザのお薬のような「ウイルスを直接やっつける特効薬」はありません。また、ウイルスが原因ですので、抗菌薬(抗生物質)も効果がありません。
そのため、治療はお子様自身の免疫力でウイルスを退治するのを助ける「サポート(対症療法)」が中心となります。
- こまめな鼻水吸引: 赤ちゃんは鼻呼吸が中心なので、鼻水を吸ってあげるだけでも呼吸がずっと楽になります。ご家庭でもできる一番の治療法です。
- 去痰薬(痰きり): カルボシステインなどを使い、ドロドロの痰をサラサラにして出しやすくします。
- 気管支拡張薬(テープや吸入)について: お子様が「ゼーゼー」していると、喘息用のお薬(ホクナリンテープなどの気管支拡張薬)や吸入治療を希望されることがあります。しかし、細気管支炎のゼーゼーは気管支の筋肉が縮んでいるわけではなく、「粘膜の腫れと痰の詰まり」が原因です。そのため、基本的には喘息のお薬や吸入を行っても症状を和らげる効果がないことが、多くの研究で分かっています。当院では、お子様にむやみに不必要なお薬を使うことはいたしません。 ただし、もともと「気管支喘息」の体質をお持ちのお子様には、例外として吸入が効果を発揮することがあります。その場合はこれまでのご様子などをしっかりお聞きした上で、適切に判断いたします。
5. 検査は全員にするの?
保育園などで流行していると、「うちの子も検査をしてほしい」とご希望されることが多くあります。しかし、当院ではすべてのお子様に検査を行うわけではありません。それには大きな理由が2つあります。
- 検査結果でお薬が変わらないから 先ほどお伝えした通り、これらのウイルスには特効薬がありません。痛くて泣いてしまう検査を頑張って受けて原因が判明しても、「行う治療(お薬)は、検査をしなかった場合と全く同じ」なのです。お子様に不必要に痛い思いをさせることは、できるだけ避けたいと考えています。
- 健康保険のルール(年齢と症状の制限)があるから 実は、これらのウイルスの検査を外来で(保険適用で)受けられるお子様は、国のルールで厳密に決められています。
- RSウイルス: 原則として「1歳未満の赤ちゃん」に限られます。
- ヒトメタニューモウイルス(hMPV): 「6歳未満」という年齢制限に加えて、「レントゲン検査などで肺炎が強く疑われる場合」にのみ保険が適用されます。ただの咳や鼻水だけでは検査ができません。
そのため当院では、「症状が重く、大きな病院への紹介(入院)が必要になるかもしれない」と医師が判断したような、本当に検査が必要なケースに絞って行っています。
6. お家での過ごし方と、すぐに受診する目安
一番大切なのは、何というウイルスに感染しているかよりも、「お子様の呼吸の様子をよく見てあげること」です。呼吸が苦しいと、眠ることもミルクを飲むこともできず、あっという間に体力を奪われてしまいます。
お家では上半身を少し高くして寝かせてあげたり、加湿をして痰を柔らかくしてあげたりしてください。 そして、以下の「呼吸が苦しいサイン」が見られたら、夜間や休日であっても、すぐに救急外来を受診してください。入院して酸素を吸ったり、点滴で水分を補ったりする治療が必要になることがあります。
- 陥没呼吸(かんぼつこきゅう): 息を吸うたびに、肋骨の間や、首の付け根(鎖骨の上のくぼみ)、みぞおちがペコペコと深く凹む。
- 呼吸が異常に速い: 肩でハアハアと息をしていて、苦しくて横になって眠れない。
- 顔色が悪い: 唇や顔の色が青紫っぽくなっている(チアノーゼ)。
- 水分が取れない: 苦しくてミルクやおっぱいが飲めず、おしっこが半日以上出ていない。




