黒沢院長のまとめ
- 入眠から1〜3時間以内に、突然激しく泣き叫ぶ睡眠のトラブルです: 眠りについて間もない深い眠りの時間帯に、突然パニックを起こしたように暴れたり叫んだりします。
- 「夜泣き」や「怖い夢(悪夢)」とは全く別の現象です: 悪夢とは脳の状態が異なり、夜泣きのように抱っこで落ち着くこともありません。翌朝にはご自身が泣き叫んだことを一切覚えていないのが特徴です。
- 無理に起こそうとするのは逆効果です: 大声で呼びかけたり、揺すって起こそうとしたりすると、かえって興奮が長引きます。危険がないように見守るのが基本の対応です。
- 多くは自然に治りますが、漢方薬などでサポートすることも可能です: 小学校高学年頃までには脳の成長に伴って自然に消失しますが、頻度が多くご家族の負担が強い場合は、興奮を鎮める漢方薬などを用いて治療を行います。
1. 夜驚症ってどんな症状?
夜驚症(やきょうしょう)は、幼児期から小学校低学年(主に3歳〜7歳頃)のお子様によく見られる睡眠障害(睡眠時随伴症)の一つです。
夜、布団に入って眠りについてから1〜3時間以内の「深い眠り(ノンレム睡眠)」の時に起こります。 突然、「ギャーッ」と悲鳴を上げて起き上がり、激しく泣き叫んだり、手足をバタバタさせて暴れたりします。目は見開いていて、大量の汗をかき、心拍数や呼吸が速くなっているのが特徴です。親御さんが抱っこしてなだめようとしても、全く声が届かず、全力で抵抗されることもあります。
この激しい状態が数分から十数分続いた後、まるで何事もなかったかのようにパタッと再び深い眠りにつきます。
2. 「夜驚症」と「夜泣き」「悪夢」の決定的な違い
お子様が夜中に泣き叫ぶと「夜泣き」や「怖い夢」と思われがちですが、医学的にこれらは全くの別物です。正しい対応をとるためには、この違いを理解することが重要です。
- 夜泣き
- 起きる年齢と状態: 主に生後半年〜2歳頃の乳幼児期に多く、浅い眠りの時に目を覚ましてしまい、不安や不快感で泣き出します。
- 対応: 親御さんが抱っこしたり、授乳したり、背中をトントンしてあげることで安心し、落ち着いて再び眠りにつくことができます。親のスキンシップにしっかり反応するのが特徴です。
- 悪夢
- 起きる時間帯と状態: 主に明け方の「浅い眠り(レム睡眠)」の時に起こります。目を覚ました後、「お化けに追いかけられた」などと夢の内容を語ることができます。
- 対応: 意識がはっきりしているため、「大丈夫だよ、夢だよ」と安心させると落ち着きます。
- 夜驚症
- 起きる年齢と時間帯: 主に3歳〜7歳頃、入眠直後の「深い眠り(ノンレム睡眠)」の時に起こります。
- 意識状態: 脳の一部だけが覚醒し、大部分は深く眠っている「半覚醒」の状態です。そのため、親の声は認識できず、なだめようとしても反発され、翌朝起きても本人は夜中の出来事を一切覚えていません。
3. なぜ起こるの?(引き金となるもの)
夜驚症の根本的な原因は、お子様の「脳の未発達」にあります。 深い眠り(ノンレム睡眠)から浅い眠り(レム睡眠)へと移行する際、脳の切り替えスイッチがうまく作動せず、脳の「恐怖やパニックを感じる部分」だけが中途半端に目覚めてしまうことで起こると考えられています。
また、発作を引き起こす「引き金(トリガー)」として、以下の要素が関係していることが分かっています。
- 睡眠不足・過労: 昼寝をしなかった日や、夜更かしが続いている時。
- 強いストレスや興奮: 昼間に遊園地で強く興奮した、激しく怒られた、新学期や引っ越しなどの環境の変化があった時。
- 発熱や体調不良: 風邪などで高熱が出ている時は、脳の睡眠リズムが乱れやすくなります。
4. 発作が起きたときの「正しい対応」
お子様が突然パニックになって叫び出すため、親御さんとしては非常に驚き、慌ててしまうと思います。しかし、夜驚症が起きている最中の絶対ルールは「無理に起こさず、安全を確保して見守る」ことです。
- NGな対応: 大声で名前を呼ぶ、体を激しく揺さぶる、顔に冷たい水をかけるなどして、無理やり目を覚まさせようとする行為。これらは中途半端な覚醒状態を刺激し、かえって発作の時間を長引かせてしまいます。
- 正しい対応: お子様が暴れてベッドから落ちたり、壁や家具に頭をぶつけたりしないよう、周囲の危険なものを片付けます。そして、静かに寄り添い、発作が自然に収まって再び眠りにつくのを(通常は5〜15分程度です)待ちます。
5. 予防と漢方薬等による治療
最大の予防法は「規則正しい睡眠スケジュールの確保(睡眠不足の解消)」です。 毎日同じ時間に布団に入り、十分な睡眠時間を確保することで、脳の睡眠リズムが整い、発作の頻度を減らすことができます。夜驚症そのものは、脳の成長に伴って小学校高学年頃までには自然に消失していくため、過度な心配は不要です。
しかし、以下のようにご家族の生活に支障が出ている場合は、小児科での治療(お薬のサポート)を検討します。
- 発作の頻度があまりにも多い(毎晩のように起こる)。
- 激しく暴れて怪我をする危険性が高い。
- 親御さんやきょうだいの睡眠不足・精神的な負担が限界に達している。
【治療に使われる主なお薬(漢方薬など)】
当院では、お子様の体質に合わせた漢方薬を処方し、脳の過度な興奮を鎮めて睡眠の質を改善するアプローチをよく行います。
- 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう): ひきつけや夜泣き、興奮しやすい状態を落ち着かせる効果があり、味が甘めで小さなお子様でも飲みやすい漢方薬です。
- 抑肝散(よくかんさん): 神経の高ぶりを抑え、イライラや筋肉の緊張を和らげてリラックスさせる働きがあります。小児の夜泣きや夜驚症に対しても広く用いられます。
「いつか治る」と分かっていても、毎晩泣き叫ぶ我が子を見るのはご家族にとって大きなストレスです。無理をして抱え込まず、少しでも不安があればいつでも診察室でご相談ください。




