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子どもの「片頭痛」について

黒沢院長のまとめ

  • 子どもにも片頭痛はあります: 「頭痛=大人の病気」ではありません。小学生の数%、中高生になると1割以上のお子様が片頭痛を持っているとされています。
  • 大人とは違う「子ども特有のサイン」があります: 頭の両側が痛む、痛む時間が短い、頭痛よりも吐き気や嘔吐が強く出るといった特徴があります。
  • 「暗く静かな部屋での睡眠」が回復の鍵です: 痛みが強い時は、光や音の刺激を遮断して眠ることで、症状が劇的に緩和される傾向があります。
  • お薬は「痛みのサインが出たらすぐに」が鉄則です: 痛みを我慢させず、早めに鎮痛薬を飲むことが最も確実な対処法です。
  • 頻繁に起こる場合は「予防薬」の選択肢があります: 頭痛で学校を休むなど日常生活に支障が出ている場合は、痛みを起こりにくくするお薬を毎日飲む治療を行います。

1. 小児の片頭痛の実態

片頭痛は大人だけの病気ではなく、小さなお子様にも発症します。しかし、小児の片頭痛は周囲の大人が気づきにくく、見逃されてしまうことが少なくありません。

その最大の理由は、小さなお子様は「頭がズキズキする」「脈打つように痛い」といった片頭痛特有の痛みを言葉でうまく表現できないためです。単に「気持ち悪い」「お腹が痛い」「疲れた」と訴えたり、急に無口になってゴロゴロし始めたりすることで、単なる体調不良や胃腸炎と間違われることがよくあります。

2. 小児の片頭痛の特徴

大人の片頭痛と比べ、お子様の片頭痛には医学的に以下のようないくつかの明確な違い(特徴)があります。

  • 痛む場所(両側性): 大人は文字通り「頭の片側」が痛むことが多いですが、お子様の場合は「おでこ」や「頭の両側」全体が痛むケースが多く見られます。
  • 痛みの持続時間が短い: 大人は一度痛くなると数日引きずることもありますが、お子様は数時間(1〜2時間程度)で痛みが落ち着くことが多いという特徴があります。
  • 消化器症状(吐き気・嘔吐)が非常に強い: 頭の痛みそのものよりも、激しい吐き気や嘔吐、腹痛といった「お腹の症状」が前面に出ることが頻繁にあります。また、車酔いしやすいお子様は片頭痛になりやすい傾向があります。
  • 光や音への過敏性: 痛みの最中は、日常の明るさやテレビの音、においなどの感覚刺激に対して非常に敏感になり、それらを不快に感じます。
  • 睡眠による強い緩和効果: 痛みがピークに達していても、暗く静かな環境でしっかりと睡眠をとることで、目覚めた時には痛みがリセット(緩和)されやすいという特徴があります。

※「小児周期性嘔吐症(自家中毒)」や「腹部片頭痛」と呼ばれる、繰り返し激しく吐いたりお腹が痛くなったりする病気は、将来の片頭痛の前段階(あるいは仲間)であると考えられています。

3. 片頭痛の引き金(トリガー)を知る

片頭痛は、何もないところで突然起こるわけではなく、脳の血管や神経を刺激する引き金(トリガー)が存在します。お子様によってトリガーは異なりますが、代表的なものは以下の通りです。

  • ストレスとその解放: 緊張や不安、またはテストや行事が終わってホッとした時(週末など)に起こりやすくなります。
  • 生活リズムの乱れ: 睡眠不足、あるいは休日の寝過ぎもトリガーになります。
  • 環境の変化: 天候の急変(台風や低気圧の接近)、強い日差し、人混み、大きな音など。
  • 女性ホルモンの変化: 思春期の女の子の場合、月経(生理)の周期に連動して頭痛が起きやすくなります。
  • 空腹・特定の食べ物: 食事時間が空いて血糖値が下がった時や、チョコレートやチーズなどが引き金になることがあります。

これらを把握するために、頭痛ダイアリー(いつ、どんな状況で、どのくらい痛くなったかの記録)をつけることが、治療方針を決める上で非常に役立ちます。

4. 痛みが起きた時の正しい対処法(急性期治療)

頭痛が始まってしまった時の対処法は、以下の2つが基本となります。

① 環境調整(暗く静かな部屋で休ませる)

片頭痛が起きている時の脳は、外部からの刺激に過敏になっています。無理に学校に行かせたり、明るいリビングで休ませたりするのではなく、カーテンを閉めた暗く静かな部屋で横にさせ、しっかり睡眠をとらせてあげてください。

② 鎮痛薬の「早期」内服

痛みを我慢させず、「痛くなり始めに、すぐに飲む」ことが最大のルールです。年齢や痛みの強さに応じて、以下のお薬を使い分けます。

(1) アセトアミノフェン(カロナールなど)

  • 対象年齢:乳幼児〜
  • 特徴: 小児の片頭痛に対する第一選択薬です。解熱鎮痛剤として風邪の時などにもよく使われるお薬で、胃への負担が少なく、小さなお子様からすべての年齢で安全に使用できます。体重に合わせて適切な用量(1回10〜15mg/kg)を計算して処方します。

(2) イブプロフェン(ブルフェンなど)

  • 対象年齢:5歳〜
  • 特徴: アセトアミノフェンで効果が不十分な場合の第二選択薬です。炎症を抑える働きが強く、確実な鎮痛効果が期待できます。

(3) トリプタン系製剤(イミグラン点鼻薬、マクサルトなど)

  • 対象年齢:原則12歳以上(または体重40kg以上)
  • 特徴: 脳の血管の拡張を抑え、片頭痛の原因そのものに直接アプローチする「片頭痛専用のお薬」です。通常の鎮痛薬が全く効かない重い発作に対して非常に有効です。
  • 注意点: 薬の説明書(添付文書)では「小児等に対する安全性は確立していない」と記載されており、保険適用外の扱いになります。しかし、日本頭痛学会のガイドラインでは、12歳以上の小児に対してスマトリプタン(イミグラン)点鼻薬や、リザトリプタン(マクサルト)の内服が有効かつ安全であると明記・推奨されています。 当院でも、ガイドラインに沿って小学校高学年・中学生以上のお子様に慎重に処方することがあります。

5. 予防のための治療

「お薬を飲まないと学校に行けない」という状態が続く場合、脳の過敏性を落ち着かせるために予防薬を導入します。効果が出るまで1〜2ヶ月かかるため、根気よく毎日内服を続ける必要があります。

(1) シプロヘプタジン(ペリアクチン)

  • 対象年齢:主に10歳未満(幼児・低学年)
  • 特徴: 元々はアレルギーの薬(抗ヒスタミン薬)ですが、小児の片頭痛を予防する効果が非常に高く、ガイドラインでも10歳以下の予防薬の第一選択として推奨されています。粉薬やシロップがあり、小さなお子様でも飲みやすいのがメリットです。副作用として眠気や食欲増加が出ることがあります。

(2) アミトリプチリン(トリプタノール)

  • 対象年齢:主に10歳以上(高学年〜中高生)
  • 特徴: 元々はうつ病の薬(三環系抗うつ薬)ですが、ごく少量を内服することで、脳内の痛みを抑える神経の働きを強める効果があります。10歳以上のお子様の片頭痛および緊張型頭痛の予防に対して、非常に高い有効性が証明されています。

(3) プロプラノロール(インデラル)

  • 対象年齢:主に10歳以上
  • 特徴: 元々は血圧を下げるお薬で、血管が過剰に拡張するのを防ぐことで片頭痛を予防します。
  • 注意点: 気管支を収縮させる作用があるため、気管支喘息を持っているお子様には禁忌となっています。過去に喘息と診断されたことがある場合は必ず事前にお知らせください。

(4) バルプロ酸(デパケン)

  • 対象年齢:主に思春期以降
  • 特徴: 元々はてんかんの薬で、脳の神経の過剰な興奮を抑える働きがあります。他の予防薬が効かない難治性の片頭痛に有効です。
  • 注意点: 胎児への催奇形性(奇形を引き起こすリスク)があるため、将来妊娠の可能性がある思春期の女性に対しては、原則として第一選択にはしません。 処方する場合は、親御さんおよびご本人への十分な説明と同意が必須となります。

5. 最新の治療

近年、大人の片頭痛治療において、痛みの原因物質である「CGRP」というタンパク質を直接ブロックする画期的な新薬が次々と登場し、治療の常識が劇的に変化しています。

  • 抗CGRP抗体薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等):
    月に1回、皮下注射を行うことで、片頭痛の発作を強力に予防するお薬です。
  • ジタン系薬・ゲパント系薬(レイボーなど):
    トリプタン系とは異なる新しいメカニズムで急性期の痛みを抑える内服薬です。

これらの最新治療薬は、現時点では成人のみが適応となっており、お子様には使用できません。しかし、現在海外および日本国内において、小児・思春期に対する有効性と安全性を確認するための臨床試験が進められています。

将来的には、難治性の片頭痛に悩むお子様にとっても、強力な治療の選択肢になる可能性があります。

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