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子どもの「過敏性腸症候群(IBS)」について

黒沢院長のまとめ

  • 検査をしても異常がないのに、お腹の痛みや便通異常が続く病気です: 血液検査やエコーなどをしても腸に炎症などの異常は見つからないのに、腹痛と下痢・便秘が長く続きます。
  • 原因は「脳腸相関(のうちょうそうかん)」にあります: 腸と脳は密接につながっているため、緊張やストレス、不安などがダイレクトに腸の動きを過敏にしてしまいます。
  • 決して「仮病」ではありません: 「学校に行きたくないから痛いフリをしている」と誤解されがちですが、お子様は「本当に」お腹の痛みを感じています。
  • お薬は「痛くならない」という成功体験(安心感)を作るために使います: イリボー(下痢の動きを抑える)やコロネル(便の水分を調節する)など、お子様の年齢やタイプに合わせた適切なお薬で、症状の悪循環を断ち切ります。
  • 「夜中に痛くて目が覚める」のは別の病気のサインです: IBSの腹痛は日中(起きている時)に起こるのが特徴です。夜中や睡眠中に痛がる場合は別の病気を疑います。

1. 過敏性腸症候群(IBS)ってどんな病気?

「朝、学校に行こうとするとお腹が痛くなる」「テストの前になると必ず下痢をする」といった症状が、数ヶ月以上にわたって慢性的に続く病気です。

症状の出方によって、大きく以下の3つのタイプに分けられます。

  • 下痢型: 突然の腹痛とともに、水のような下痢を繰り返す(男の子にやや多い傾向があります)。
  • 便秘型: お腹が張って苦しく、ウサギのフンのようなコロコロとした便しか出ない(女の子にやや多い傾向があります)。
  • 混合型: 下痢と便秘を数日ごとに交互に繰り返す。

どのタイプにも共通しているのは、「排便する(うんちが出る)と、お腹の痛みがスッと楽になる」という点です。

2. なぜ起こるの?(「脳腸相関」のしくみ)

胃腸炎のようにウイルスや細菌が原因で腸が荒れているわけではありません。原因は、脳と腸の密接なネットワーク「脳腸相関(のうちょうそうかん)」にあります。

腸には、脳に次いで多くの神経細胞が集まっており「第二の脳」とも呼ばれます。そのため、学校での人間関係や勉強のプレッシャー、新学期の緊張といった「脳のストレス・不安」が、自律神経を通じてダイレクトに腸に伝わります。その結果、腸が過剰にひきつったり(けいれん)、動きが異常に活発になったり鈍くなったりして、腹痛や便通の異常を引き起こしてしまうのです。

3. 典型的なパターンと危険なサイン

IBSの腹痛には、「平日の朝や日中によく起こり、休日は元気に遊べていることが多い」という特徴があります。

一方で、ただのIBSではなく、腸の中に重大な病気(炎症性腸疾患など)が隠れている可能性を示す危険なサインがあります。以下の症状が一つでも当てはまる場合は、詳しい検査が必要になりますので必ず教えてください。

  • 夜間・睡眠中の腹痛: 痛くて夜中に何度も目を覚ます。(IBSは原則として寝ている間は痛くなりません)
  • 血便が出る: うんちに血が混じっている、真っ黒な便が出る。
  • 体重減少: しっかり食べているのに体重が減っていく、または身長が伸びない。
  • 発熱を伴う: お腹の痛みとともに、原因不明の熱が続く。

4. 痛みとの付き合い方

休日は元気なのに、平日の朝になると「お腹が痛い」とトイレにこもるお子様を見ると、親御さんとしては「学校を休みたいから仮病を使っているのでは?」と疑いたくなるお気持ちはよく分かります。

しかし、お子様は決して嘘をついているわけではありません。本当に、ギュッと腸が絞られるような痛みを感じているのです。 ここで「気のせいでしょ!早く行きなさい!」と叱ってしまうと、お子様は「信じてもらえない」という更なるストレスを感じ、脳腸相関によって腸の動きはさらに悪化し、痛みが強くなるという悪循環に陥ってしまいます。

まずは「痛いんだね、辛いね」と症状を客観的に受け止め、認めてあげることが、お子様の安心感(=腸へのリラックス効果)につながります。

5. 治療に使われる主なお薬の特徴と使用年齢

IBSの治療では、根本的な原因(ストレス)をすぐに無くすことが難しくても、お薬で症状を抑え、「今日はお腹が痛くならなかった」という安心感(成功体験)を積み重ねて予期不安を減らすことを重視します。お子様の症状に合わせて、以下のようなお薬を細かく使い分けます。

① 下痢をピンポイントで抑えるお薬

  • イリボー(ラモセトロン塩酸塩) 主に「下痢型」のIBSで処方される、非常に効果の高いお薬です。脳がストレスを感じると、腸から「セロトニン」という物質が大量に放出され、腸を過剰に動かして下痢を引き起こします。イリボーはこのセロトニンの働きをブロックし、腸の異常な運動を強力に抑え込みます。
  • 使用できる年齢: これまでは大人のみのお薬でしたが、現在は「5歳以上」の小児に対しても正式に使用が認められています。1日1回の服用でしっかり効き目が持続するため、学校生活を送る上で非常に心強いお守りになります。

② 便の水分バランスを整えるお薬

  • コロネル / ポリフル(ポリカルボフィルカルシウム) 下痢型、便秘型、さらには両方を繰り返す混合型など、どのタイプにも幅広く使われます。胃や腸の中で水分をたっぷり吸い込んでゼリー状(ゲル状)に膨らむ「高性能なスポンジ」のような働きをします。下痢のときは「多すぎる水分」を吸い取って便を固め、便秘のときは「水分を保持したまま」カチカチの便を柔らかくします。このお薬自体は血液中に吸収されず、便と一緒に外へ排泄されます。
  • 使用できる年齢: お薬の添付文書上、小児に対する明確な適応年齢は設定されていませんが、小児科診療においては粉薬(細粒)を体重や年齢に合わせて細かく調整することで、小学生頃から広く安全に使用されています。

③ 腸の動きや環境を整えるベースのお薬

  • セレキノン(トリメブチンマレイン酸塩) 腸の動きが活発になりすぎている時は「抑え」、鈍くなっている時は「活発にする」という、腸の運動の「バランサー(調整役)」として機能します。
  • 使用できる年齢: こちらも明確な小児の適応年齢は定められていませんが、粉薬(細粒)を体重に合わせて調整できるため、幼児期・学童期から幅広く使用されています。

④ その他の薬剤

  • 整腸剤・漢方薬など 乳酸菌や酪酸菌などの善玉菌(ミヤBMなど)は腸内環境を整える土台として長期的に継続します。また、お腹の張りやシクシクした腹痛には、体質に合わせて大建中湯などの漢方薬を処方します。

6. 日常生活の工夫

お薬によるサポートと並行して、日々の生活習慣の改善を両輪として進めていきます。

  • 食生活の改善: 1日3食をなるべく決まった時間に摂ることで、腸のリズムを作ります。また、腸の刺激になりやすい「脂っこい食事」「冷たすぎる飲み物」「香辛料(スパイス)」「カフェイン」は控えめにしましょう。
  • 睡眠とリラックス: 睡眠不足は自律神経の乱れに直結します。十分な睡眠時間を確保し、ご家庭がお子様にとって一番リラックスできる安心な場所となるようサポートをお願いいたします。

IBSのお薬は「風邪薬のように数日飲んで終わり」というものではありません。その時のストレス状態や学校行事(テストや新学期など)によって症状に波があるため、焦らず少しずつペースを取り戻していくことが大切です。ご不安な点があれば、いつでも診察室でご相談ください。

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