黒沢院長のまとめ
- 最大の目的は「重症化の予防」です: ワクチンは「絶対に感染しない」ためのものではなく、命に関わる重篤な合併症を防ぐためのものです。
- 13歳未満は原則「2回接種」が必要です: 生後6ヶ月から接種可能で、基礎免疫をつけるために2〜4週間の間隔をあけて2回接種します。
- 痛くない「鼻からのワクチン」もあります: 2歳〜18歳であれば、鼻の中にスプレーする生ワクチンを選択することが可能です。
- 卵アレルギーのお子様でも、ほとんどの場合は安全に接種可能です: 現在のワクチンに含まれる卵成分は極めて微量であり、重篤なアナフィラキシーの既往がなければ基本的に接種できます。
- 流行前の10月〜11月中に済ませるのが合理的です: 効果が出るまで約2週間かかるため、本格的な流行が始まる前にスケジュールを完了させてください。
1. インフルエンザワクチンの目的
「去年ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかったから、今年は打たなくてもいいですか?」というご質問をよく受けます。
残念ながら、インフルエンザワクチンの目的は「感染を100%防ぐこと」ではありません。発症を予防する効果は、お子様の年齢やその年の流行株との一致度合いによって変動します。
小児科医が接種を強く推奨する最大の理由は、「インフルエンザ脳症」や「重症肺炎」といった、命に関わる、あるいは一生残る後遺症をもたらす重篤な合併症を防ぐためです。万が一感染・発症したとしても、ワクチンを打っていれば症状を軽く済ませることが期待できます。
2. 不活化ワクチン(注射)
従来の注射するタイプのワクチンです。日本の基準では、年齢によって接種回数が異なります。
- 生後6ヶ月〜12歳(13歳未満):原則2回接種 お子様はインフルエンザに対する基礎免疫が少ないため、2回接種することで免疫をしっかり引き上げます。1回目と2回目の間隔は「2〜4週間」とされていますが、免疫をより強固にするためには「3〜4週間」あけるのが最も効果的です。
- 13歳以上:原則1回接種 過去の罹患やワクチンの経験によって基礎免疫ができているため、1回の接種で十分な効果が得られます。
3. 生ワクチン(経鼻)
近年、鼻の中にスプレーする経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト)が承認・導入されました。
- 対象年齢: 2歳〜18歳
- 回数: 原則1回
- メリット: 針を使わないため、注射の痛みがありません。また、インフルエンザウイルスの侵入口である鼻の粘膜に直接免疫(IgA抗体)を作るため、従来の注射に比べて長い発症予防効果が期待できると考えられています。
- デメリット: 生ワクチンのため、接種後数日以内に軽い鼻水や微熱など、インフルエンザに似た症状が出ることがあります。 また、タミフルなどの抗インフルエンザ薬を使用すると、ワクチンの生きたウイルスが死滅して効果が著しく低下してしまうため、接種の前後(特に接種後1〜2週間以内)はこれらの薬の使用が制限されます。 さらに、接種後しばらくの間はインフルエンザの迅速抗原検査を行うと、ワクチンのウイルス成分に反応して「偽陽性(本当は感染していないのに陽性と出る)」になるため、一時的に正確な検査診断が困難になります。 その他、ゼラチンアレルギーがあるお子様や、免疫不全の方、重度の気管支喘息があるお子様は接種できない場合があります。
4. 卵アレルギーとワクチン
インフルエンザワクチンの製造工程では鶏卵が使用されるため、卵アレルギーを心配される親御さんが多くいらっしゃいます。
しかし、現在の不活化ワクチンは高度に精製されており、残存している卵白アルブミン(アレルギーの原因物質)の量は極めて微量です。生ワクチンにおいても卵白アルブミン含有量はごくわずかです。 そのため、「卵を食べると少し口の周りが赤くなる」「蕁麻疹が出る」といった程度の卵アレルギーであれば、通常は問題なく接種可能です。 過去にワクチン接種でアナフィラキシー(呼吸困難や血圧低下などの重篤なアレルギー反応)を起こしたことがない限り、過度に恐れる必要はありません。ご不安な場合は、接種前に診察室でご相談ください。
5. 接種のタイミングとスケジュール
インフルエンザワクチンを接種してから、体の中に十分な抗体(免疫)が作られるまでには約2週間かかります。 例年、12月頃からインフルエンザの流行が本格化するため、逆算して「10月から接種を開始し、11月中には2回の接種(または生ワクチン1回)を完了させておく」のが最も確実です。




