黒沢院長のまとめ
- 5歳を過ぎての月1回以上のおねしょは「夜尿症」という疾患です: 決して本人の怠けや、親御さんの育て方の問題(愛情不足など)ではありません。
- 絶対原則は「怒らない、あせらない、起こさない」です: 特に「夜中に無理やり起こしてトイレに行かせる」のは、抗利尿ホルモンの分泌を妨げ、逆効果になるためやめてください。
- 主な原因は「作られる尿量」と「膀胱の大きさ」のアンバランスです: 夜間に尿の量を減らすホルモンが足りないか、膀胱に尿を溜める力が未熟であることが原因です。
- 生活習慣の改善、お薬、アラーム療法で治療できます: 水分摂取のコントロールを基本とし、状況に合わせて内服薬(ミニリンメルトなど)や夜尿アラームを用いて治療を進めます。
1. 「おねしょ」と「夜尿症」の違い
乳幼児期の「おねしょ」は、成長過程における生理的なものであり、病気ではありません。 しかし、「5歳を過ぎても、1か月に1回以上のおねしょが、3か月以上続いている」場合、医学的には「夜尿症」と診断され、治療の対象となります。
5〜6歳のお子様で約10〜20%、小学校高学年でも約5%に夜尿症が見られます。決して珍しい病気ではありませんが、お子様自身の自尊心を傷つけたり、宿泊行事(お泊まり保育や修学旅行など)への不安につながったりするため、適切な時期に医療機関で介入することが推奨されています。
2. なぜ起こるの?(主な原因)
夜尿症は、心理的なストレスが根本的な原因ではありません(※引っ越しなどで一時的に再発することはあります)。主な原因は以下の身体的な未発達によるものです。
- 夜間の尿量が多い(多尿型): 通常、夜寝ている間は「抗利尿ホルモン」というホルモンが脳から分泌され、尿の作られる量を減らします。このホルモンの分泌が少なく、夜間も昼間と同じようにたくさんの尿が作られてしまうタイプです。
- 膀胱が小さい・過敏(膀胱型): 膀胱に尿をしっかり溜めておく力が未熟なため、少しの尿が溜まっただけで膀胱が勝手に縮んでしまい、漏れてしまうタイプです。
- 睡眠が深すぎる(睡眠覚醒障害): 膀胱がいっぱいになっても、脳が尿意を感じ取って目を覚ますことができない状態です。
これらが単独、あるいは組み合わさって夜尿症を引き起こします。
3. 治療の絶対原則:「怒らない、あせらない、起こさない」
夜尿症の治療において、ご家庭で必ず守っていただきたい3つの原則があります。
- 怒らない: お子様はわざと漏らしているわけではありません。寝ている間の無意識の出来事に対して怒っても、プレッシャーやストレスを与えるだけで全く意味がありません。
- あせらない: 夜尿症の治療は、数か月から年単位の時間がかかります。「他の子はもうおむつが取れているのに」と他人と比べず、お子様のペースを見守ってください。
- 起こさない: 「漏らす前に夜中に起こしてトイレに行かせる」、これは明確な間違いです。 夜中に無理やり起こすと、深い睡眠時に分泌されるはずの「抗利尿ホルモン」の分泌がストップしてしまい、結果的に尿の量が増えて夜尿が治りにくくなります。朝までぐっすり寝かせることが治療への近道です。
4. 治療の進め方と具体的なアプローチ
クリニックでの治療は、まず生活習慣の改善から始め、効果が不十分な場合に、お子様の状態に合わせてお薬の処方やアラーム療法を追加します。
① 生活習慣の改善(基本中の基本)
- 夕食以降の水分を控える: 1日に必要な水分の大部分を朝と昼に摂り、夕方以降はコップ1杯程度に制限します。
- 就寝前に必ずトイレに行く: 布団に入る直前に、完全に膀胱を空にする習慣をつける。
- 便秘を治す: 腸にうんちが溜まっていると、すぐ隣にある膀胱を圧迫して夜尿の原因になります。便秘がある場合は、まずそちらの治療を優先します。
② お薬による治療
お子様の夜尿のタイプに合わせて、以下のようなお薬を使用します。
- ミニリンメルト(一般名:デスモプレシン酢酸塩水和物): 「夜間の尿量が多いタイプ」に非常に効果的なお薬です。水なしで口の中でサッと溶けるお薬で、寝る前に飲むことで「抗利尿ホルモン」を補充し、夜間の尿が作られるのを強力に抑えます。
【飲水制限について】 このお薬は尿を作らせなくする働きがあるため、服用前2〜3時間から翌朝起きるまでの間は、飲水をコップ1杯程度(約200ml)までに制限するという絶対ルールがあります。この時間帯に水分を摂りすぎると、体内に水分が過剰に溜まって血液の濃度が薄まる「水中毒(低ナトリウム血症)」を引き起こす危険性があります。水中毒になると、激しい頭痛、吐き気、嘔吐が現れ、重症化するとけいれんや意識障害を起こすことがあるため、この飲水制限は親御さんの管理のもとで必ず守っていただく必要があります。
- 抗コリン薬(ポラキス、バップフォーなど): 「膀胱が小さく過敏なタイプ」に使用します。膀胱の緊張を緩めてリラックスさせ、尿をたくさん溜められるようにする働きがあります。
③ アラーム療法
パンツやパジャマに小さなセンサーを取り付け、尿を感知するとアラームが鳴る装置を使います。 アラームで目を覚まさせることを繰り返すうちに、脳が「膀胱がいっぱいになった」というサインを学習し、睡眠中の膀胱の容量を広げたり、漏らす前に起きられるようにする訓練(条件付け)です。
5. いつ受診すべきか
「5歳を過ぎたら、まずは一度ご相談を」というのが小児科医としての目安です。 小学校入学前や、初めての宿泊行事(お泊まり保育)を控えているタイミングで受診される方が多くいらっしゃいます。問診と尿検査(糖尿病や腎臓病などの病気が隠れていないかの確認)を行い、お子様に合った無理のないペースで治療方針を決定しますので、おむつの外れ具合で悩む前に、ぜひ診察室でお話しください。




